感想 2009.09.04 (金)
参謀本部編『世界大戦の戦術的観察』偕行社、1924~26年

今まで読んだ参謀本部の本の中では、ずば抜けてよい本。決して読みやすいわけではない。旧軍独特の文章であり、誤字脱字も多いが、第1次大戦での作戦・戦術レベルの邦書として最高峰である。若干の現代的解釈を加えれば、今出版したとしても世界に十分通じる名著ではないかと思う。本書では、西部戦線の独仏軍の戦術的変遷が主軸になっている。大戦初期のイギリス軍は有効的(効果的か、effective)な組織とは言い難かったのでしょうがないかも知れない。

物語の始まりはマルヌ戦後で、一線陣地か数線陣地か、という問題からである。結局数線陣地に軍配が上がるのだが、それを押し崩すために大量の砲弾をたたきこむが、今度は砲撃に生き残った機関銃に打ち倒される。もう泥沼の火力・消耗戦である。数線陣地は陣地帯に進化していき、砲兵はもっとシステマチックになっていく。機関銃を撲滅するために、現場の士官は意見を出し、それは戦闘群戦法につながっていく。本書では、フランス軍の戦闘群戦法に関する1916年の教令で、その始まりとしているが、ドイツ軍は師団独自で突撃隊を1915年の中頃から編成し始めているから(ドイツ軍では現場での裁量が大きいから)、そっちの方が早いのではないかと思ったりする。

参謀本部員の誰かは分からないが、著者は「火力戦だけど精神力も大事だよね」とか「アジアの戦場だとこの通りにはならないよね」とかところどころに書いているが、自身が書いているのは泥沼の火力戦である。まあ、この本では精神至上主義的な旧軍の悪い癖があまりでていないのでこれぐらいは許せる。というより、著者は「日露戦争の時にはすでに正面突撃は多大な損害を被った」としている(わが軍の勇敢なる突撃でロシア軍を打ち崩したために陣地を占領する困難性について各国の注目をあまり引かなかったが、とカバーが入るが)。

「装甲陣地」突破の糸口が見えてくるのは、1917年後半のカンブレー、リガ、カポレット戦である。この勢いで米軍到着前にドイツ軍は雌雄を決しようとするが・・・作戦・戦術レベルではどうにもならない結果をもたらす。その後、連合軍の総反攻(断続的に攻勢を行い、ドイツ軍の予備兵力を消耗させた後、本攻勢を行って勝敗を決する戦略)の途中でドイツの内部崩壊で大戦は終わる。

驚いたのは、最後の結論の部で英フラー少佐の言が紹介されていることである。著者は軍隊の機械化について、興味を持っているが・・・論は自由だが、現実は厳しいということか。残念。

本書の最後はこう締めくくられている。
「これを要するに、砲兵火力の歩兵への随伴問題は陣地戦初期より難問題として残りし問題にして、爾来多くの月日と悲惨なる実験を重ねたるも大戦間ついにその解決を見ずして残れり。そしてこれを解決せんがための一方法として案出された戦車の出現によりて戦闘方式が根本において変化する機運に向かいあるが如き傾向を暗示して今日に及べり。すなわち砲兵火力と歩兵との協同なる問題は今日といえどもなお未解決の問題にして、おそらく将来においても解決を見ることなくして終わるであろう。これけだし軍隊の機械化により、これが解決を必要とされるべきをもってなり。」(読みにくいところは最低限修正した。)


書き忘れていたが、付図・挿図がたくさんあるので理解を助けてくれるのがうれしい。学研のムック本にこれの要約記事みたいなのが載っているが、機会があればこっちも読んでほしいと思う。読むのに根気が要るけどね。
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